寝坊から始まった朝は、いつにもまして慌ただしかった。
朝のルーティンだけはきちんとこなしたい私と、急ぐ理由が見当たらない旦那との温度差に、苛立ちがじわりと募る。なんとか会社に間に合う時間に家を出たものの、彼が待っていてくれる確証はなく、メッセージを送る指先まで落ち着かない。
「いつものところいるよ」
その一文に胸をなでおろし、改札を抜けてエスカレーターを急ぎ足で降りていく。
リュックを降ろし、コートを抱えたまま彼に思いきり抱きつく。この匂いと体温だけで、張りつめていた心がほどけていく。わずかな時間でも、朝のルーティンを彼と共有できたというだけで、私の一日は大きく変わる。
いくつものMTGをこなし、ようやく夕方。
今夜は彼と過ごせる貴重な時間だったはずなのに、トラブルが重なって結局いつも通りの時間に会社を出た。
それでも彼に会った瞬間、いつも肩の力が抜けて、本当の“私”に戻る感覚に陥る。
彼にしかできないこと、彼だからできること、彼しか知らないこと。
いくつものシーンが、その“特別”を静かに証明してくれる。
彼の家に着くなり、彼は私を抱き上げるような勢いで抱きしめ、腕の力とは対照的に優しくキスをした。
2人の世界に入るには十分すぎる始まりで、今でも胸がきゅっと締め付けられる。
彼のたれ目や柔らかな唇、そのすべてを、いつでも思い出せるように目に焼き付ける。
2人の世界から戻るころ、心は満たされていた。
なのに、現実を思うと、胸の奥の“彼”だけが
ゆっくりと枯れ始めるのが分かってしまう。
▼ この日の “もうひとつの視点”
2025年11月18日(火) 晴れ -残像-

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