彼女との記憶を思い起こす時、いくつかの場所や光景、彼女の表情、匂いなどが思い浮かぶ。
その中でも、常に僕の中で出てくるのが彼女と行った夜の空港の景色だ。
僕らは初めて出会ってから、会話を重ねる中でびっくりするくらい「感性」が似ていた。好きなものが似ているとかいうのはもちろんのこと、物事の見方や捉え方、琴線に触れる対象や事象の言語化の仕方など。色々な部分で、単に「性格が似ている」というだけでは言葉が足りない感じだった。心の”あり方”が近い感じがした。
仕事が終わった後、いつものように彼女を乗せて車を走らせていた。どうしてそうなったのかはもう覚えていないのだけれど、お互い「空港の雰囲気が好き」という話になり、せっかくなら今から空港に行ってみようかとなった。
夜の空港の雰囲気は最高だ。空港独特の空気がある。同じ日本だけど、日本じゃない。どんな人間だって、どんな関係値だって、「そういう人もいる」という許容と無関心が優しく漂っている。僕らはその空港の空気を知っていたし、そこが好きだった。
駐車場に車をとめ、ターミナルに向かう。手を繋いだまま、誰にも気にすることなく身体を寄せ合って歩いていた。普段はそんなことできないこともあってか、お互いの歩調は浮ついていた。
夜のターミナルを行き交う人たちの間を、僕らもそんな人たちの一部になって歩いた。今まで、僕らは見られてはいけない、気付かれてはいけないという気持ちの中、ここではそんなことはどうでも良かった。それが嬉しかった。
滑走路を見渡せる展望デッキに向かう。夜の滑走路を無数のジェット機が轟音を立てて離着陸していた。飛行機を誘導するライトがたくさん光っていて綺麗だった。
そんな景色を見ながら彼女とベンチに座り、長いこと会話をした。
「このまま2人でどっかに行っちゃおうか、(僕の名前)さんとなら海外でもどこでも楽しくやっていける気がする」
彼女は飛び立っていく飛行機を見つめながら、ぽつりと漏らした。
彼女との記憶はたくさんあるけれど、僕の中で思い起こされる記憶はいつもこの記憶だ。本当にあの時、全部を投げ出して2人で逃避行ができたら、そんなことはできっこなかったのはわかっているけど今でもこの時のことをぼんやり考えてしまう瞬間がある。
この時の彼女の言葉は、今の僕らが目指している「一緒にいられる日々」を追い続ける原動力だ。いつか絶対、そんな関係になれた2人でリュック一つで手を繋いでターミナルを歩けると思っているから。

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